・・・・・・ 沢庵漬け

1年中食べられる沢庵(タクアン)漬け
漬物といえば、まづ1番に沢庵を想像します。沢庵は、材料がどこでも手に入る大根であること、漬け方が容易なこと、1年中保存がのきくこと、漬物の中で第1位とするべきでしょう。
新漬けの新鮮な味はかくべつですが、古沢庵には古沢庵として捨てがたい風味があります。味の取りあわせ、色の配合などにも、沢庵は無くてはならない漬物です。
大根の選び方と乾(ほ)し方
●大根の選び方=もっとも適したものとして「練馬大根(ねりまだいこん)」が第1で、次に「宮重(みやしげ/青首)」があります。「練馬」が1番なのは、組織が細かく弾力があり、乾燥させるとその特徴が増して、暑い夏を過ごし通す耐久力があるからです。「練馬」に次ぐ「宮重」をのぞく他は、乾燥中に失敗することが多いいので、おすすめできません。
●大根を抜く(収穫)時期=それぞれ地域により多少の違いが有ります。早い土地で11月(新暦)中旬からですが、ほんとうは12月に入ってからのほうがよいのです。大根は、種を畑に蒔いてから、最低100日たたなくては、ほんとうの味が出ないからです。ですが、多くの場合、7〜80日目頃の物が市場にでまわります。これらは形だけで組織もまだ未成熟です。ほんらい、大根は、二三度くらい霜にあい、完全な組織ができあがります。また、その時期になると、乾燥に適した寒風も吹きはじめ、理想的となります。
●大根の乾(ほ)し方=家庭では、屋根の下に限ります。雨や露にあたらない場所が安全です。大根は、水で洗ってはいけません。泥のついたまま干します。わざわざ土をなすりつけるくらいです。湿った土が付き過ぎの場合は、ワラなどでこすり落とします。
4〜5本づつ葉先をワラや縄で一束にくくり、横に渡した竹や棒にまたがせて乾します。自然にまばらに配置します。日光には当たっても当たらなくてもよいのですが、寒風で乾燥させる、これが何より大切です。雨露や雪で湿りますと、葉が赤く枯れて、反対に心葉は青々と生きてきてしまい、大根の中に太い線ができ、肉はやせてしまいます。ときには、ボンボンと音がするようになり、大根の滋養分はぬけて、辛味だけがのこります。
順調に乾し上がってゆくと、全体の葉が青々と乾き、辛味が去って、反対に甘味が保たれ、弾力のある気持ちのよい仕上がりとなります。美味しい沢庵を漬けるには、まづ大根を上手に乾しておくことです。

●乾しかげん=保存する期間によって、塩加減が違います。と同時に、大根の乾しかげんも、保存期間に合わせなくてはいけません。長く貯蔵するものほど塩も多くし、大根も充分な乾しかげんの大根を使います。
一〜三月までの期間で食べるものは、半曲がりに曲げて折れないていどの生乾(なまぼし)大根(上図左)を。四〜六月までの期間に食べるものは、輪にして折れないていどの中乾(なかぼし)大根(上図中)を。七月以降に食べるものは、1つに結んで折れないていどの上乾(じょうぼし)大根(上図右)にします。
塩と糠(ヌカ)の選び方
●塩の選び方=一等塩より二等塩がよく、三等塩くらいがもっともよい(今もこのような等級分けなのか分かりません。三等塩とは、生ものの保存に使う「粗塩」でしょうか)。塩は生塩よりは枯れた塩のほうがよく、1〜2月前から買い置きして、苦汁(にがり)を取り除いたものを使います。笊(ざる)に入れておくと、苦汁(にがり)は自然に脱(ぬ)けます。
●糠の選び方=糠は古糠がよいと言われた時代(昭和7年から見て)もありました。沢庵和尚(たくあんおしょう/臨済宗の僧)も古糠を勧めたと、昔の本に残っていますが、学理からも実地からも新糠が適しているようです。糠に粉米が入っていると酸味を生じ、砂や石粉が入っていると糠の効力をさまたげます。
漬け樽(たる)と色づけ
●漬け樽=毎年漬け慣れた樽でしたら安心です。新しく樽を用意するのでしたら、古い酒樽を使います。少しだけ漬けるのでしたら、味噌か醤油の空き樽でよいでしょう。酒樽ですが、お酒の香がしていたり、味がしみ込んでいて、美味しく漬け上がると考えがちです。なるほど、しみ込んでいる間はよいのですが、少量の酒精(アルコール)は間もなく悪化をし、嫌な臭いを放ちはじめ、また酸味を早く生じさせて失敗に終わります。樽は使う前に水をはり、アクやしみ込んでいる前の味を充分にぬき、良く洗います。味噌・醤油の樽も同じようにします。
・・◇おし蓋・おし石については 「 漬物についての(心得)こころえ 」をご参照下さい。
●沢庵の色づけ=沢庵色の黄色は、おし石の重量によって、糠が自然に黄色く変わり、また沢庵特有の香気を生みます。業者が色づけとして使う黄粉(鬱金/ウコン)は、量が多いと苦味が生じたりで、味を悪くします。家庭用としては使わないほうがぶなんです。もし使うなら、4斗樽(18.039P×4)に40匁(もんめ/3.75K×40)が適量でしょう。
甘味をつけるには、甘草(かんぞう)の粉末を使います。漢方薬店で手に入ります。4斗樽に40匁が適量です。そのほか、ナスのヘタや柿の皮を乾して混ぜる方法もありますが、これは「百一漬」とよぶ漬物に味が似ていて、沢庵本来の味から見て、感心いたしません。
漬け込みの仕方

●漬け込み分量のめやす=
・・*1斗=18.039P/1升=1.8039P/1合=0.18P/*1貫=3.75L/1匁=3.75K

◇初期/1月〜3月のぶん。
・・4斗樽(18.039P×4)に大根17貫(3.75L×17)
・・糠(ぬか)8升(1.8039P×8)・塩2升5合から3升。(合=0.18P)
・・おし石13貫(3.75L×13)以上を使用します。

◇中期/4月〜6月のぶん。
・・4斗樽(18.039P×4)に大根17貫(3.75L×17)
・・糠(ぬか)8升(1.8039P×8)・塩4升から5升まで。
・・おし石16貫(3.75L×16)以上を使用します。

◇後期/7月以後のぶん。
・・4斗樽(18.039P×4)に大根8貫(3.75L×8)
・・糠(ぬか)8升(1.8039P×8)・塩6升から7升まで。
・・おし石18貫(3.75L×18)以上を使用します。

・・塩加減に幅があるのは、早めに消費の予定でしたら少なめ、
・・三ヶ月で消費の予定でしたら、多くするというわけです。

●漬け込み=
・糠と塩を調合します。色や甘味をつけるばあいは、ここで一緒に調合します。
・乾し大根の葉付のところから、土をきれいに落とします。けっして洗ってはいけません。大根は乾し場からおろしたら、すぐに漬け込むのが理想です。日が経つほど味が悪くなり、扱いにくくなります。葉付から葉を切り落とすのですが、切り落とした葉は後で使いますので、大事にして下さい。
・樽の底に調合した糠を5合(0.18P×5)ほど振りまき、短い乾し大根<を選んで、大根の頭を前方に向け右手で握り、樽の左端から並べます『古いレシピですから、右利きを前提に記されています。商品として樽ごと出荷するばあいは違うのかもしれませんが、左利きの方は反対からでよいはずです』。大根の頭を樽の壁に強く押付け、ぎっしり並べたら、中ほど大根と大根の間に両の指を入れ、 力をこめて左右に押し分け、できたすき間に更に大根を詰めてゆきます。大根が短いと手前が空きます、その時は頭を手前にやはり左から右へさらに並べ詰めます。注意すべきは、長い大根は縦に押しちじめ、けっして弓形に曲げてはいけません。どこまでも真っ直ぐにならべて行きます。並べ終えたら、大根が見えなくなるまで調合の糠を振りまきます。
・2段目も同様にならべます。1段目の大根と並行です、決して井げたに並べてはいけません
・以後同様に、あと1段で樽のフチとすれすれまで積み上げ、切り落とした乾し葉を載せます
・乾し葉は、葉の根元を大根の上に立て、樽の外へ折り倒しておいて、最後の段の大根を並べてゆくと、樽一杯になります。更にその上に2〜3段積むのですが、上の段に行くに従い、両端を1本ずつ少なくします。
・最後に、乾し葉の葉先を起こし大根の上にかぶせ、すき間には乾し葉をギッシリとのせます。
・一定の保管場所へおき、おし蓋をしてます。おし石は樽のフチにつかえぬように行儀良くおきます。

・普通は、5日以内に汁が上がってきます。
・汁が上がって、3日めの頃、おし石を2日間だけ取りのけ、また元の通り、おし石を戻しておきます。
・3週間経ったころ。汁の高さに目印をつけておき、汁が少なくなっていく様でしたら、おし石を追加します。あまり減らぬようなら、その必要はありません。
食べ始めてから
1月〜3月のぶんは、漬けて2週間頃から食べ始められますが、大根の質により、多少変わるようです。食べ始めるときは、汁を残さず捨ててから漬物を出します。これは初期の樽についてで、中期・後期用の樽には、おし蓋の上から塩水をタップリ入れておきます。こうすると、虫もでず、糠の焼ける(変色)もなく保つことができます。おし石は、なるべくもとのままが良いのですが、沢庵が半分以下になったら、軽くしてもよいでしょう。



「目次」に戻る -INDEX-